第1回:激しい変化や先の見えない状況を、「突破力」で乗り越える
防衛大学校を卒業後、単身で乗り込んだデンマークのグローバル企業を振り出しにビジネスのキャリアを重ね、一方では野宿でアメリカ横断旅行やサハラマラソンなどに挑んできた、ワンドロップス代表の村重亮が、自身のユニークなこれまでの経歴やちょっと異色の体験体験をもとに、未知の課題や困難を乗り越えるための「突破力」についてお話しします。
「突破力」とは、答えのわからない課題や困難を乗り越える反射力のようなもの
経営者の方々と話をしていると、「この先をどう乗り越えていけばいいのか?」「変えなくてはいけないとは分かっているが、どう変えていくかが分からない」といった悩みを聞くことが珍しくありません。たしかに社会や経済の構造が劇的に変化し、しかもそれがとどまることのない現在、過去の成功体験や教科書どおりの方法論だけでは、ビジネスの成長はおろか生き残りすらおぼつかないでしょう。
この、行き先の見えない、地図も存在しない状況にあえて挑戦し、課題や困難を乗り越えていく力を、私はひそかに「突破力」と名付けています。私自身、他の人とは少々変わった経歴を重ねてきた中で、一見どうしようもない状況を、自分なりに考え、行動することで克服してきた経験が、今の私を支えているのだと思っています。
ちなみに「突破力」とは、文字通り、避けられない危機や、あるいは何が起こっているのかとっさに理解できない状況でも、とっさに自分の身を守り、危険を回避し、先へ進む能力です。それは体系化された知識やスキルよりも、武道などで対手の攻撃をかわして瞬時に反撃に出るといった「鍛錬された無意識の動き」に、むしろ近いものだと私は考えています。
このコラムでは、ビジネスはもちろん、人生のさまざまな機会に出会う困難や、判断に迷う事態を打開して先へ進むための「突破力」とは何か。それをどう磨くのか。私の経験や、ふだん思っていることなどをご紹介しながら、「この先をどう乗り越えていけばいいのか?」と真剣に考えている皆さんのヒントにしていただきたいと願っています。
「先が見えない」のではなく、「先を見たくない」という甘えと無責任
社会や経済、文化、そしてテクノロジーが目まぐるしく変化していく中で、「先が見えない」「次のステップに進めない」と嘆く人は少なくありません。そうした方々には、自分の置かれた状況や課題に対する「突破力」がないと私は見ています。
ではそもそも、なぜ悩む人たちにはなぜ「突破力」が生まれないのか。一般的な言い方をすれば、なぜ変化する環境を把握し、分析・理解し、解決に向けた合理的な行動が選択できないのか。簡単に言えば、その人や組織の意思が弱かったり、後ろ向き、あるいは自分の内側に向いているケースがほとんどです。
「今、何かをしないといけない」ことは分かっている。たとえば、既存の主力商品の市場競争力がどんどん弱まってきている。サービスに競合が続々と生まれていて、一刻も早くこのレッドオーシャン状態から脱け出さなくてはならない。そこで必要なのは、自分たちの置かれている状況や短期・中長期的な課題の分析・評価、それに対する対応策や競争優位を保つための新規施策です。
しかし多くの人は、そういう新しいこと、知らないこと、慣れないことに、できればチャレンジなどしたくないと思っています。むしろ過去から現在に至るまでの、良かったことだけをそのまま続けたい。できるだけ荒波を立てずに維持していきたいと願う。つまり「先が見えない」のではなく、「先を見たくない」。そうして無意識に、妄想の未来にしがみついているだけなのです。
そうやって目前の課題から目をそらし、「そのうち、誰かが何とかするだろう」などと、存在しない第三者に期待して先送りする。あえてきつい表現を用いますが、経営者であれば無責任だし、現場のビジネスパーソンであれば「甘え」に過ぎません。
「必要なのは、正確な視点と状況把握、そしてそれらに基づく明確な仮説
では、そうした後ろ向きの姿勢を脱して、みずから課題を乗り越える「突破力」を自分の中に育てるには、どうすればよいのでしょうか。「甘えを捨てるのだから、まず強い意志や克己心を養わなくてはならない」と構えなくても大丈夫です。ここではそうした漠然とした精神論は、むしろ必要ありません。
必要なのは、課題に対する正確な視点と状況把握、そしてそれらに基づく明確な仮説です。自分にはっきりとした「変わろう」「変えていこう」「課題を乗り越えよう」という意思さえあれば、あとは現状を正確に見据えて分析し、そこから目指すべき未来を具体的に描くことができる。しかもそれが不可能でない範囲のビジョンであれば、自ずと突破力の源泉となるベクトルが生まれてくると私は考えています。
ひとつ注意しなくてはならないのは、その「目標」と「変化を生み出す能力」とがあまりに乖離している場合は、それを近づける方策を考えなくてはいけないし、軌道修正が難しい場合は、もう一度最初から考える必要があります。ただし、そうなったとしてもそれは「不可能」という意味ではありません。単にステップのきざみが甘い。例えば全くスポーツをしたことがない人が、トレーニングもせずにいきなりエベレストに登るようなもので、今は不可能でもステップを踏んで力をつける、環境を整えていけば実現できることを忘れないでください。
逆にいくら自分が専門能力や経験が豊富でも、肝心の意思が後ろ向きだったり逆だったり、あるいは目的と大きくずれていると、せっかく行動しても突破すべき方向を見失ってしまいます。当たり前だと思うかもしれませんが、いざ当事者になるほど陥りがちなミスであり、ここはかなり重要なポイントです。
もうひとつの注意は、「こだわりは大事だが、変なところにこだわらない」。もちろん、状況をとことんまで分析し判断することは、何が何でも目的を達成するというこだわりがなければできません。それがあって、初めて「突破力」を持った戦略が生まれるし、そこから価値が生まれてくるからです。ここで注意すべきは、分析と判断が揺らいでいると変なところに固執して、無駄なこだわりをしてしまうこと。これはかえって「突破力」を妨げ、弱めてしまうので気をつけましょう。
目標を欲張らない。「これは!」という1本に絞りこめば必ず達成できる
最後にもうひとつ、私が今まで色々な目標に挑戦する中で気がついたことです。
これまで、何かのプロジェクトなり取り組みを始めようとする時、周りの同僚の中には、私よりもかなり良い条件でスタートを切っている人たちが何人もいました。にもかかわらず、ゴールにたどり着いて周りを見回すと、なぜか私の方が最終的に目標を達成していたということが何度もありました。
この時よく観察してわかったことは、「目的を達成しようとして、人はしばしば欲しいものを欲張りすぎてしまう」ということです。おそらく私の同僚たちも、その恵まれた条件を味方に「ならば、このテーマも目標に加えよう」と考えたのでしょう。しかし私の経験からすると、目標というのはかなり難しいものでも1つに絞れば意外に達成できてしまうものなのです。それが2つになると急に難しくなって、3つ、4つ、5つと増えるにつれてどんどん難易度が上がっていく。
逆に言えば、「これだけは達成したい!」という目標が決まったら、他のものは全部捨ててでもそこに集中してやり抜く。これも一見精神論のようですが、ビジネスでよく言われる「選択と集中」というキーワードに置き換えれば、「ああ、なるほど」と納得できるのではないでしょうか。「突破力」に必要な陣形は、意外とシンプルなのです。
実はこうした私の感覚の源泉となっているのは、生まれて初めて海外に行った、アメリカでの3ヶ月の体験です。この時私は、最後の1カ月を全財産900ドルで過ごしました。1日あたりに使えるお金はわずか30ドルです。宿泊費と食費を引いたら、もう交通費もありません。
そこで「一泊20~25ドルの宿泊費がかかるなら、これを節約すれば他に行動するための原資ができる」と考え、実際に駅のプラットフォームや移動中の列車で寝ながら、アメリカ大陸をほぼ東西横断しながら、見たかったものや行きたかった場所に行くことができました。この若さにまかせた節約旅行の体験は、20年経った今も私の「突破力」のルーツになっています。
次回以降は、こうした私の経験=色々な人との出会いや経験や危機一髪の体験も含めて、私の「突破力」の源泉となってきたものを、少しずつ皆さんにお話ししていきたいと思います。どうぞお付き合いください。